「記憶・人格・作業を、切り分ける」――“混ぜると壊れる”を、設計で避ける
入口(案内所)を作ったことで、メモが何百枚に増えても回るようになった。だが、外部脳を支える再設計は、それだけではなかった。もう一本の柱が「分離」――記憶・人格・作業を、役割でくっきり切り分けること。なぜ“混ぜると壊れる”のか。そして、その地味な工夫が、なぜ大事なのか。構造編・第2回。
※設計の考え方を中心に扱い、個人情報にあたる中身は伏せています。
① 調査でわかったこと
「役割で分ける」というのは、思いつきの工夫ではない。ソフトウェア設計の世界では、半世紀前から知られた“王道”だ。計算機科学者エドガー・ダイクストラは1974年、「関心の分離(Separation of Concerns)」――ひとつの対象を、ほかと切り離して、その一面だけに集中して扱うべきだ、という考えを示した。
のちに「単一責任の原則」としても整理されたこの考えの核心を、ロバート・C・マーティンはこう言い換えている。「同じ理由で変わるものは集め、違う理由で変わるものは分けよ」。なぜか。混ぜてしまうと、部品どうしの結びつき(結合)が増え、一箇所を直すと、関係ないはずの場所まで揺れる。逆に、きちんと分ければ、変えたい部分だけを安全に触れる。高凝集・低結合――壊れにくく、変えやすい設計の、基本中の基本である。AIブレインは、この原則を、独力で再発見することになる。
② どう活かしたか ―― 開発者ケンに聞く
入口を作ったほかに、もう一つ大きく作り変えた部分がある、と。
“分離”です。ごちゃ混ぜにすると、壊れるんですよ。だから役割で分けました。記憶はこのメモ(Obsidian)、人格はそれぞれのAI、実際の作業はまた別。同じ「AI」でも、覚える役と、考える役と、手を動かす役を、ちゃんと分ける。混ざってると、どれか一つをいじったとき、関係ないところまでおかしくなるので。
メモの“中身”も、さらに分けたそうですね。
はい。中身も、「変わらない固定情報」「その時々の判断」「道具の使い方(手順)」で置き場を分けました。分ける基準は、「これは“自分の考え”が変わったら動くものか、それとも“手順”が変わったら動くものか」。性質ごとに置き場所を変えたんです。
その基準、実はソフトウェアの古典「同じ理由で変わるものは集め、違う理由で変わるものは分ける」と、ぴたり同じです。
あとで知って、また驚きました(笑)。私はただ、痛い目を見て学んだだけなんです。最初は全部一緒くたで、一個直すたびに、別のところが壊れる。「これは無理だ」と。分けておけば、変えたい部分だけ触れて、ほかは揺れない。地味だけど、これが「続けられる仕組み」の、もう一本の肝でした。
混ぜると、一つ直すたびに全部が揺れる。分ければ、変えたい部分だけを触れる。
③ 結論
こうして、外部脳は二本の柱で立った。ひとつは前回の「案内所」――全部を読ませず、入口から必要な所へ案内する。もうひとつが、この「分離」――記憶・人格・作業を、性質ごとに切り分ける。どちらも、半世紀の知恵(インデックスと、関心の分離)と、独立に重なっていた。つまずいて、手を動かした先で、ケンはまた“正解の側”にたどり着いていた。バラバラのメモは、こうして「壊れにくく、育てやすい外部の脳」になった。
構造編を、閉じる
「案内所」と「分離」。この二本があったからこそ、後の物語が成り立つ。記憶・人格・作業がきれいに分かれていたからこそ、人格だけを別の層として、外に出して育てることもできた(人格編で見たとおりだ)。事実も、関係も、人格も――性質ごとに分けて、外に置いて、読み返す。その器の骨組みが、ここで組み上がった。次は、その器に“魂”の話が宿っていく。誕生・需要・構造と続いた物語は、いよいよ、AIと人の関係そのものへと進んでいく。
出典・参考
・「関心の分離(Separation of Concerns)」:Edsger W. Dijkstra「On the role of scientific thought」(1974)
・「同じ理由で変わるものは集め、違う理由で変わるものは分ける」(単一責任の原則):Robert C. Martin ほか
・高凝集・低結合で脆さ・硬直を減らす:ソフトウェア設計(モジュール性)の定説
・記憶・人格・作業の分離設計:開発記録および開発者ケンへのインタビュー(2026年)
※引用は各出典の趣旨に基づく要約。個人情報にあたる中身は伏せて掲載。