「全部覚える」をやめた日――肥大化したメモが、AIの“入口”になるまで
記憶を外に出せば、AIの“忘れる”は解決する。そう思って進めた開発者は、すぐ次の壁にぶつかった。メモが増えるほど「で、どれを読ませればいい?」になる。記憶を持たせたはずが、今度は“多すぎる記憶”が重荷になったのだ。その答えは「全部保存」ではなかった――。知識管理の定番原則と、開発者ケンの生の声から、AIの「入口」が生まれた過程を追う。構造編・第1回。
※本記事中の引用・参考は末尾の出典に基づきます。個人情報の一部は伏せています。
① 調査でわかったこと
記憶を外部ファイルに出す――この発想自体は理にかなっている。だが、ファイルが増えていくと新しい問題が生まれる。「全部を読ませると、結局またパンクする」。外に出したはずの記憶が、今度は“量”として重くのしかかる。
実はこの落とし穴、知識管理の世界では昔から指摘されてきた“あるある”だ。
「第二の脳(Building a Second Brain)」を提唱するタイアゴ・フォーテは、何でも溜め込む状態を「デジタル・ホーディング(情報のため込み)」と呼んで戒める。彼の有名な一言が「脳は、アイデアを“持つ”ためのもの。“しまっておく”ためのものではない」。大事なのは全部を保存することではなく、本当に使えるものだけを残すことだ、と説く。
古くから知られるメモ術「ツェッテルカステン」も同じ立場をとる。すべてを一か所に貯め込むのではなく、「インデックス(索引)」という入口のメモを作り、そこから必要な情報へたどれるようにする。索引は“目次”であり、知識への入り口の役割を果たす。
つまり——「全部覚える」は、プロほど避ける落とし穴。鍵は「索引(入口)を作り、本体は外に置く」。開発者ケンは、これをまったく独力で、手を動かしながら再発見することになる。
② どう活かしたか ―― 開発者ケンに聞く
外部ファイルに記憶を出した。それで解決――とはいかなかったそうですね。
そう、結局同じやったんですよ。ファイルにしても、言ってしまえば“覚える量”やから。全部読ませたら、コンテキスト(AIが一度に扱える容量)の圧迫は変わらない。外に出したのに、また重い。
そこから、どうやって「入口を1枚決める」という形にたどり着いたんですか。
あれは大変な作業でした。AIと相談しながら、大きくなったファイルを片っ端から仕分けして、どこが容量を食ってるか洗い出した。中身を「決定してること」「まだ未達のこと」「ただの雑談」「前提」って分けて、そのファイルが単体で機能するのかどうか、“詳細が要る話か、結論だけでいい話か”まで、一個ずつ判断していった。
仕分けていくうちに、何か見えてきた。
気づいたんです。「一番でかいこのファイル、要するに“日記”やな」って。出来事を細かく記してたから、どんどん膨らんでた。なら、日記そのものを毎回読ませる必要はない。日記から“いるものだけ”を抜き出せばいい。そうやって必要分を抽出してできたのが、入口になる1枚――「今の状態(カレント)」でした。
全部を覚えるな。どこに何があるかを覚えろ。
面白いのは、それが知識管理の世界で昔から言われてきた原則とぴたり重なることです。「ため込むな、索引を作れ」「脳は保存庫じゃない」――ケンさんは、それを本を読んでではなく、手を動かして自分で掘り当てた。
後から「同じこと言ってる人いるんや」と知って、逆に自信になりましたね。困って、手を動かしたら、結局みんなが行き着く場所に出た。だったらこの方向で間違ってないな、と。
③ 結論
記憶は「全部持つ」より「どこに何があるかを持つ」。肥大化した“日記”から必要分だけを抽出し、入口の1枚(カレント)に集約する――これがAIブレインの「外部脳」の核になった。そしてそれは、「第二の脳」やツェッテルカステンといった確立された方法論が説く原則と、独立に一致していた。つまずいて、手を動かした先で、ケンは“正解の側”にたどり着いていた。
④ 次回
入口を作ることで、メモが何百枚に増えても回るようになった。だが、外部脳を支える再設計は、これだけではなかった。もう一つの柱が「分離」――記憶・人格・作業を、役割でくっきり切り分けること。次回・構造編②では、なぜ“混ぜると壊れる”のか、その仕分けの思想を追う。
出典・参考
・「デジタル・ホーディング」「脳は保存庫ではない」:Tiago Forte『Building a Second Brain』(buildingasecondbrain.com)
・インデックス(索引)で案内する考え方:Zettelkasten メソッド(en.wikipedia.org/wiki/Zettelkasten ほか)
・AIブレインの構築経緯:開発者ケンへのインタビュー(2026年)および開発記録ノート
※引用は各出典の趣旨に基づく要約。